ひつまぶしっ!

一粒で三度おいしい、そんな創作ブログ。

ミンミンたんの短い夏 最終話

背景1
あれから一週間が過ぎた。
蝉達の大合唱も最盛期に突入し、暑さもより厳しさを増していく。その日、命の唄を響かせる彼等に水を注す様に、帰路につく俺の周辺地域は突然の夕立に見舞われた。中途半端に降る雨は焼けたアスファルトを冷ますには至らず、いたずらに湿度のみを上げていく。傘を持たない俺は熱帯雨林を鬼の形相で駆けていた。


こっち見んな☆2
最近の天気予報は当てにならない。
そう頭の中でぼやきながら、民家の屋根で雨を凌ぎつつ苛々を募らせ、機を見計らい駆けるを繰り返す。ガードレール沿いの並木を走り抜ける度、殺気を感じたのか、蝉達は次々と飛び去っていく。実際、俺は殺気立っていたかもしれない。彼等にはさぞかし恐ろしい怪物に見えていただろう。だが、一匹だけ俺が近付いても微動だにしない奴がいた。そこは、自宅まで半分まで来た場所にある河原の前。

よく見れば、それは蝉の抜け殻。
それも一つではなく、数えるのがうんざりするくらいの数が錆びたガードレールの柱にくっ付いている。河原であるにもかかわらず、そこには木が生えていなかったからだ。だからあいつは…あんな場所を彷徨っていたのだろうか。ふと、河原に目をやる。彼女達がどこから地上に出てきたのかが気になったからだ。アスファルトを迂回するとすれば、出てこられる場所はそこしかない。

舗装され、無機質なコンクリで挟まれた河原…であった川は、対照的に水質は良いのか悪いのか、色彩豊かな水草や雑草が所々に生えている。山の方から種が流されてくるのだろう。子供の頃、よくこの河が干上がった際に砂利の裏に潜んだ虫を捕まえたものだ。当時を懐かしむ様に、俺はコンクリの斜面を滑り降りてその場所を目指す。

川の中で一瞬、何かが光ったような気がした。
生茂る雑草に滴る雫より強く。
目を凝らして見れば、それは虫の羽であった。
周囲の色を投影し、七色に輝くその羽の中央に彼女は居た。





眠々1
相変わらず、俺が名付けた名前通りに眠り続けて。

↓続く↓ 眠々2
再会した彼女の体は酷く痩せ細り、骨格が浮いて見える程だった。
羽は歪み、片方は痛々しく千切れかかっている。
見紛う余地などは無くて。




眠々3

彼女は眠り続ける。名付けた通り、残酷な程に無垢のまま。
そして俺が彼女の飛翔する時に立ち会う事はない。

あの時手出しせずにいればまた違った結末になっていたかもしれない。
摂理という言葉を、正直俺は嫌っていた。

それは宗教の言葉だからだ。
どんなに祈っても神とやらは何もしてくれない。
母も恋人も、どんなに願っても助からなかった。

自分に都合のいい神という偶像にすがるより自らが行動しろ。
そんな慢心が招いた結果がこれだというのか。




眠々4

人が生まれ、帰る居場所を実感するまでの間、
彼女は闇の中でずっと光に焦がれていた。
瞬きの命を彼女は全う出来たであろうか。

琥珀に暮れなずむ世界。
差し伸べようとしたその手を戻し、一人佇む。

こんなにも広い世界である筈なのに。
其処以外、彼女に相応しい墓標は見つからなくて。



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